第51夜 ー穴蔵ー

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 ある程度まではそっと距離を詰め、そこから足音関係なしに走り出した。  神藤が近付いてきたことにより、熊が吠える。それと同時くらいに女性も気付いて振り返り、ハッと息を呑んだのが分かった。  奇襲は成功だ。  結局熊は声を上げるだけで攻撃してくることはなく、防御が間に合わなかった女性は、肩から袈裟斬りに斬られた。  それでも咄嗟に体を仰け反らしたらしく、深い一撃には届かなかった。そのまま背中から派手に落ちる。が、もこもこの熊がクッションとなり、すぐに起き上がってきた。  思った以上のダメージにならず、神藤は苦い表情を見せる。それでも先に一撃を与えたことを良しとした。 「……あなた、もしかして高レベル者なの?」  お互いそれぞれの格好で睨み合う。しんと緊迫した空気の中、斬られた箇所を手で覆いながら訊ねてきた。  きっと剣を装備しているから、レベル50以下の登録者だと思っていたのだろう。 「だったらどうしますか?」  敢えてハッキリと答えなかった。自分を隠すのもまた、ひとつの戦略だからだ。 「どうともしないわ。ただそうなら面倒だなって思っただけ。だって、あなたを殺さなきゃならないことに変わりはないんだもの」  どこか諦めたかのような、淡々とした口調。  ナイトメアを生き残るには、女性の言い分は間違いないが、それは同時に長く殺人の世界に身を置いている証拠でもある。 「そうですね。俺もあなたを殺さなきゃいけない。生きる為に」  そう言って、神藤は剣を薙刀に変える。皆が装備出来る物と違った見た目に、女性の顔は困ったように顰められた。 「あぁ。やっぱり高レベル者じゃない」  面倒そうに答えて、素早く立ち上がる。 「私はこんなところで死ねないの!」  大きな声で言うと、即座に輪を投げてきた。神藤はそれを、野球のバットみたいにして叩き返す。  速いスピードに乗って戻っていくのを見ながら、深追いせずに距離を空けた。  ――次の一投を避け、討つ!  頭の中で攻撃のイメージを流し、次で全てを終わらせると決める。  繋がる糸を操り手元に戻すと、女性は休む間もなく2激目を投げてきた。イメージ通りの展開に、思わず笑んでしまうそうになる。  それを堪えると、数歩後ろに下がった。
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