第51夜 ー穴蔵ー

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 もう大体の糸の範囲の予測は出来ていた。  短くはないが、長過ぎもしない。長くし過ぎるとコントロールが難しくなるので、絶妙の長さに調節されていた。  だから神藤はその長さギリギリの所で立ち、空振りとなったところを走り出す考えだった。  間違いないだろうと思う場所で立つ。後はもうそこまで迫る輪の動きを見極める為、視線をそちらに集中させる。少しでも手元に戻っていく素振りになったなら、即座に駆け出す準備は整った。  コンマ何秒と言う世界でその時を待つ。しかし訪れる気配はなく――むしろおかしいと思った時には輪は胸に触れていた。 「――何っ!?」  驚きと共に激痛が走る。回転によって切れ味を増した輪の威力は絶大だ。少ししか触れなかったのに、傷跡は深いものになる。  ぽたぽたと鮮血が滴り、神藤は苦痛に顔を歪めた。  ……推測を見誤った?  胸を押さえながら顔を上げると、輪はすでに女性の手の中にあった。  にっと笑い、3撃目が投げられる。神藤は慌てて後ろに下がった。  さっきの2激目が際どい場所だったなら、今度こそ当たらない――。  そう思う程、十分な距離を空ける。  しかし飛んでくる輪は返っていくことはなく、それどころかぐんぐん距離を伸ばし、来ないと思われた所を簡単に侵入してきた。 「くそっ!」  明らかに飛距離が上がっている。  咄嗟に薙刀を目の前で構えた。顔を斬り裂くはずだった輪は、薙刀に絡まり止まった。  糸が切れんばかりに張り、引っ張り合う形となる。苦戦する神藤に対し、女性はくすっと笑い声を出した。 「色々と推測したみたいだけど、残念だったね。私のチャクラムの飛距離は、糸の長さの範囲内であればいつでも好きに調節することが出来る。ひとつ忠告してあげると、これが最大の長さじゃない」  勝ち誇ったようににぃと笑う。  全ては女性の手の平で踊らされていた――相手の方が上手だったと、ギリと歯を噛みしめた。
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