第51夜 ー穴蔵ー

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 逃げるにはある程度の距離を取る必要があった。  この足で逃げ切るのは不可能。となれば、何処かに身を隠すしかない。隠れる為の時間を作るには、一瞬であっても女性の視界から外れなければならなかった。  それを考えれば、走る先は④番ホームの方。  それなのに②番ホームの方に来てしまえば、①番ホームと言う行き止まりにぶつかってしまう。距離から考えて、こちら側が正解とは思えなかった。  でも来てしまったものは、もうどうしようもない。どうにか振り切る策を練りながら、神藤は線路の上を走る。  トンネルのような構造は音が響き、背後から追い掛けてくる女性の靴音がはっきりと聞こえていた。  ここはとても暗い。灯りは設置されていないようで、足元はほぼ何も見えない。  しかし遠くの方に微かな光が点として見え、それが②番ホームの場所だとは分かった。とにかくそこを目指し、右足を引きずりながら走る。  しばらく精一杯のスピードで走っていると、②番ホームからの明かりが届く所までやって来た。  僅かではあるが周辺のことが見えるようになり、ふと左側のある箇所に視点が移動した。  ぼんやり薄明るい中、その1箇所だけが暗い。  明かりが届いておらず影を作っているそこは、壁ではないことを物語っていた。  ――それは通路。  左に折れる別の道があり、神藤は迷わず曲がった。  線路が走る所と比べここは狭い。ひとりで歩く分には問題ないが、ふたりで歩くとなるとキツイだろう。  もちろん明かりはなく、壁に手を付きながらではないと進めない程の暗さだが、今の神藤にとっては好都合だった。  きっとここに曲がったことは、気付かれていないだろう。仮に気付かれたとしても、この暗闇の中では女性も動きを制限される。  追うスピードは嫌でも落ち、その間に身を隠せば、発見は困難なものになるだろう。  何とか逃げ切る算段が付き、少しばかり心に余裕が生まれる。  と、その時、走って来た方向から響いた低音が聞こえ、足の裏に振動が伝わってきた。
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