第52夜 ー難状ー

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『今はテレビを見ながらごろごろしてるよ。今日も暑そうだね』  そんな会話を送りながら、神藤は電車に揺られていた。  あれから出掛ける準備を始め、9時半頃に家を出た。ある場所に向かう為――電車に乗っているのだが、どうにも心が落ち着かない。  そわそわすると言うか緊張すると言うか、早く着いて欲しいようなまだのような。  妙な心持ちのまま、榊とLINEのやり取りを交わす。『今は何をしているの?』に嘘を書いて、スマホから目を外した。  通勤時間のピークを過ぎた電車内は、ゆったりとしている。それでも椅子は埋まり、吊り革を握って立つ者も多い。  夏休みと言うこともあってグループでいる女の子達や、親子連れの姿も目立った。  神藤は扉の前に立って、流れる景色をぼんやりと見つめる。今向かっている所は地域として行ったことはあるが、その特定の場所に行くのは初めて。  事前にネットで、下調べをこれでもかと言うくらいしたのだから、大丈夫だと言い聞かせていると、アナウンスが流れた。 「まもなく電車は止まります。次は――」  いよいよだと思えば、心臓がどきりと大きく音を立てる。  やがて停車した電車から降り、2番出口を目指した。  駅から出ると、もうじめっとした暑さに襲われる。眩しい陽の光に目を細め、今日も暑くなることを予感させた。  歩いて何処かに向かって行く人達を尻目に、地図アプリを起動させる。行き先案内の音声が始まったところで、ある場所に向かって歩き出した。  ここは神藤が住む所より栄えている地域。都心とは違うが隣町と言うこともあって、商業施設や高いビル群が立ち並んでいる。  そのお陰で目印となる場所は多く、初めての土地でも迷うことなく目的地へと着いた。 「ここか……」  思わず独り言が出て、正面に見える建物を見つめる。無事着いた喜びは一瞬で消え、緊張と躊躇う気持ちが押し寄せてきた。  ログハウス調の可愛い家の窓から、うさぎが顔を出して手を振っている。  神藤が足を運んで来たここは、マリンちゃんのグッズを売る専門の店だった。
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