第4章

5/5
前へ
/5ページ
次へ
抉りこむように穿ち続けて自分の快楽を追う。 ぐったりと身体を投げ出した多紀さんは、もう声を上げる力もないようだった。 そのまま彼の奥で欲望を開放したかったけれど――ぎりぎりで引き抜いて、彼の腹部に熱をばらまいた。 中から引き抜いた途端、身体を支えていた芯が抜かれたみたいに、彼がかくりと首を落とす。 意識を失うようにして眠りについた多紀さんを見下ろして、俺は唇を噛んだ。 荒れ狂うような欲情が去って、少しづつ思考が戻ってくる。 酷いことをしたという後悔に混じって、もっと欲しいと言う熱望が背筋を焼く。 もっと抱きたい――めちゃくちゃにしたい。 多紀さんの身体の奥の奥まで快楽を刻み込んで、俺に抱かれた事を二度と忘れられないようにしてしまいたい。 昏い欲望をかろうじて振り払うと、俺は多紀さんの身体を濡れタオルで清めた。 寝室から持ってきたタオルケットで冷え切った身体を包みこむ。 涙の痕が残る頬に、指を触れた。 「――すき」 ごめんなさい、と言おうとした唇から出た言葉に、自分ではっとする。 そう、好きなんだ……俺は、この人が――多紀さんが。 初めて会った時から、ずっと。たとえ自分のものにはならない人だとしても、それでも。 「すき、です」 そんな言葉が免罪符になどならない事ぐらい、分かっていたけど。 「……すき」 繰り返して、彼の額に唇を押し付けた。彼の唇が微かに動いた気がした。 昏々と眠る彼を背に、俺は部屋を出た。まだ暗い空には半月が傾きかけている。 その日を境に、彼は店に来なくなった。 >第二話 多紀 に続く
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加