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抉りこむように穿ち続けて自分の快楽を追う。
ぐったりと身体を投げ出した多紀さんは、もう声を上げる力もないようだった。
そのまま彼の奥で欲望を開放したかったけれど――ぎりぎりで引き抜いて、彼の腹部に熱をばらまいた。
中から引き抜いた途端、身体を支えていた芯が抜かれたみたいに、彼がかくりと首を落とす。
意識を失うようにして眠りについた多紀さんを見下ろして、俺は唇を噛んだ。
荒れ狂うような欲情が去って、少しづつ思考が戻ってくる。 酷いことをしたという後悔に混じって、もっと欲しいと言う熱望が背筋を焼く。
もっと抱きたい――めちゃくちゃにしたい。
多紀さんの身体の奥の奥まで快楽を刻み込んで、俺に抱かれた事を二度と忘れられないようにしてしまいたい。
昏い欲望をかろうじて振り払うと、俺は多紀さんの身体を濡れタオルで清めた。
寝室から持ってきたタオルケットで冷え切った身体を包みこむ。
涙の痕が残る頬に、指を触れた。
「――すき」
ごめんなさい、と言おうとした唇から出た言葉に、自分ではっとする。
そう、好きなんだ……俺は、この人が――多紀さんが。
初めて会った時から、ずっと。たとえ自分のものにはならない人だとしても、それでも。
「すき、です」
そんな言葉が免罪符になどならない事ぐらい、分かっていたけど。
「……すき」
繰り返して、彼の額に唇を押し付けた。彼の唇が微かに動いた気がした。
昏々と眠る彼を背に、俺は部屋を出た。まだ暗い空には半月が傾きかけている。
その日を境に、彼は店に来なくなった。
>第二話 多紀 に続く
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