最高のごちそう

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「ヒナ。俺がずっと一緒にいたいって思った女性は、ヒナが初めてなんだよ。昔の彼女たちとだって決していい加減な気持ちで付き合ってきたわけじゃないけど、ヒナを想う気持ちとは全然違った。こんなに大切にしたいと思ったのも、誰にも渡したくないと苦しんだのも、ヒナが初めてなんだ。四六時中ヒナのことを考えている。俺はもうヒナなしでは生きていけない。だから」 そう言ってから、ハルは深呼吸した。 「毎日、ヒナの隣で朝を迎えたい。2人で一緒に朝食を食べたい。ヒナが作ってくれたり、俺が作ったり」 ハルの真剣な瞳に射抜かれて、私はあたふたしてしまう。 「そ、それって、それって、もしかして。……ど、同棲しようってこと?」 「違う」 自分のおでこに手を当てて、ちょっと落ち込んだようなハルを見て、恥ずかしくなった。 「だ、だよね! ゴメン! 変なこと言っちゃって。えっと、出勤前にここに寄るのは不可能じゃないけど、知っての通り私ってば朝に弱くて。だから、毎日はちょっと無理かな」 そう言いながら、私は頭の中で逆算していた。 ハルの家に寄って朝ご飯を作って一緒に食べてから出勤するっていうと、いったい何時にうちを出ればいいんだろう。 「そういうことじゃなくて」 もどかしそうに唇を引き結んだハルの意図がわからない。 首を傾げて彼を見ると、ハルがそっと頭を撫でた。 「ちょっと目をつぶってて」 突然、そんなことを言われ、戸惑いながらも目をつぶると、ハルが立ち上がって離れていく気配がする。 なんだろう。何かのサプライズ? でも、今日は誕生日でもないし、何かの記念日でもない。 記念日と言えば、ハルは2人の記念日を全部覚えている。 2人が出会った日も、初めて食事に行った日も。 付き合い始めた日はハルの誕生日だから覚えていて当然だけど、初めてハグした日も、初めてキスした日もハルは見事に忘れない。 普通、そういうのって女子の方が覚えているものだけど、残念ながら私は覚えていられない性格で。 あ、性格じゃなくて記憶力の問題か。 いつもハルに言われて気が付くんだ。 『今日は初めて手を繋いでから2か月の日だね』なんて具合に。 そのたびに私の胸はチクッと痛む。 きっと、前の彼女がそういうのを覚えていないと怒る人だったんだろうなって。
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