最高のごちそう

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「もういいよ。目を開けて」 ハルの声にそっと瞼を上げれば、緊張したようなハルが正面に座っていた。 「ヒナにははっきり言わないとわからないってことを忘れていた」 そんな前置きをしたハル。私が鈍感だってこと? 文句を言おうとした私の口を、ハルが人差し指でそっと押さえた。 「ヒナ、俺と結婚してください」 そんな言葉とともに差し出されたのは、どこからどう見てもエンゲージリング。 お花の形の台座に輝くダイヤモンド。こ、これはもしやシャネルの? 親友の杏里が雑誌を見ながら、『これ、可愛い』と話していたのと同じのだ。 「え⁉ これ、本物?」 「デザインが可愛くて、これが一番ヒナに似合うと思ったんだけど。やっぱり自分で選びたかった?」 不安そうなハルの顔と指輪を交互に見るしかない私。 「えっと……」 正直、結婚なんて全然考えていなかった。 そりゃあ、私だっていつかは結婚して子供をもって、という未来は思い描いていたけど。 こんながさつな私が誰かの奥さんになるなんて、想像もできなくて。 もちろん、その”誰か”はハル以外には考えられないんだけど、このままの私じゃハルに申し訳ないっていうか。 眉をハの字にして口を開きかけると、ハルが焦ったように遮った。 「断らないで! 返事はYesしか受け付けないから」 「でも」 「なんで? ヒナは俺を愛してるんだよね?」 泣きそうな顔のハルに大きく頷いてみせた。 「だったら、なんで? あ、もしかして、さっき言ってたこと? 『いつかは別れて他の人を好きになる』って。俺は一生、ヒナに夢中でいる自信があるよ」 いつもよりも早口なハルに、私は首を振った。 ハルからのプロポーズが嬉しくないわけじゃない。 でも、私はハルと違って、自分に自信がない。 こんな素敵な人に愛され続ける自信も、ちゃんと奥さんをやっていける自信もない。 自分のことだけでいっぱいいっぱいなんだから。
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