163人が本棚に入れています
本棚に追加
自慢じゃないけど、足には自信がある。
今日はフェミニンなミニワンピにちょっとヒールの高いパンプス。
でも、そんなのものともせずに駅までダッシュした。
なんで、こうなっちゃったんだろう。
ハルに手料理を食べてもらって幸せだったのに。
あの指輪、返品できるのかな? 高かっただろうに悪いことしちゃったな。
そんなことを考えながら、とにかく走った。
走ってないと、泣き叫んでしまいそうだったから。
駅前のロータリーが見えてきて、美味しそうなパン屋さんも見えた。
今朝、この駅で初めて降りたときは、今度、あのパン屋さんに行ってみようなんて思っていたのに。
きっと、もうここには二度と来ない。
もう、ハルには二度と会えないんだ。
私が走るのをやめたのは、ロータリーの手前の小さな公園の横。
幸せそうな親子連れが遊んでいて、小さな子どもたちにぶつかったら大変だと思ったから。
思えばハルと私の出会いは、駅構内を走っていた私がハルにぶつかったことがきっかけだった。
「ヒナ‼」
いつの間に追いつかれていたんだろう。ハルが追いかけてきたのも気づかなかった。
バシッとハルに手首を掴まれた。
「相変わらず足が速いな。でも、捕まえた。もう逃がさない。”さよなら”って何? 愛し合ってるのに、別れるのか?」
「だって! ハルは待っててくれないんでしょ?」
「うん、3年も待てない。今すぐヒナと一緒になりたいんだ。待つ必要なんてないだろ? 俺は今のままのヒナが好きなんだから」
「3日で捨てられちゃうよ……」
「捨てるもんか! ヒナの手料理、すごく旨かったよ。でも、たとえ料理が全く作れなくても、俺はヒナと一緒にいたい。お互いを思いやって助け合えれば、それでいいよ。ヒナがいてくれれば、他には何にもいらない。ヒナはそうじゃない?」
「私も。ハルがいてくれればいい。ハルがいなきゃダメだよ」
別れるなんて、やっぱり無理。
ハルのいない人生なんて考えられない。
最初のコメントを投稿しよう!