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壁の掛け時計を見ると、午後2時。
お昼前にハルの家に来て、お昼ご飯を作って食べて。
じゃあねで帰るのは早過ぎる?
「……疑われるって、誰に何を?」
ハルの端正な顔がちょっと険しくなった。
「お母さんに。その……ハルの家でイチャイチャしてると思われちゃうでしょ?」
さっきのキスはまさしくイチャイチャだったとは思うけど。
その先のことまでしてきたんじゃないかと母親に勘繰られるのは恥ずかしい。
「なんだ。お母さんにか。俺、てっきり」
自分の失言を恥じるようにおでこに手を当てたハルは、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「てっきり、何?」
私の追及に一瞬目を泳がせたけど、ハルはきゅっと唇を引き結んでから話し出した。
「てっきり、誰か他の男に浮気を疑われるって言うのかと思った。ごめん。わかってる。ヒナが俺以外の男とどうこうなんてないってことは。でも、この1カ月、ヒナが心変わりしたって思い込んでたから」
私がハルの家の合鍵を失くしたことを彼に言えなくて、嘘をついてデートを何度もキャンセルしたために、ハルは自分が嫌われたと思い込んでいたらしい。
すべて正直に話して、ハルの誤解が解けたのが3日前。
だから、まだハルが疑心暗鬼なのもわかるし、すべてはわたしのせいだ。
「ていうか、イチャイチャしちゃダメなの?」
反省して俯いた私の耳にハルの意外な言葉が届いて、思わず顔を上げた。
「外じゃキスも満足に出来ないから。早くこうやってヒナと2人きりになりたいと思ってたのは俺だけ?」
いつも紳士的で草食系のハルがいきなりそんなことを言い出したからビックリした。
「さ、さっきみたいな大人のキスをしたいと思ったことはないけど」
私が口を開くとハルの顔が曇ったから、慌てて先を続けた。
「それは私の経験値が低いからで。話に聞いたことはあったけど、実際に経験したことがなかったから、予想も期待もしてなかったってだけで」
「嫌だった? 俺とじゃ気持ち悪い?」
恐る恐る聞いてきたハルにブンブンと首を振った。
「ううん! 気持ち良かった!」
パッと顔を赤らめたハルを見て、(あれ? 私、何か変なことを言っちゃったかな?)と思った。
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