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「ピクニックのときも3日前も、ハルに抱きしめられてドキドキしたよ? 会社の真ん前だったから、次の日みんなに冷やかされて大変だったけど。だから……私もこんな風にハルと2人きりになりたかったかも」
「じゃあ、また抱きしめてもいい?」
「うん」
そっと壊れ物を扱うみたいな優しい抱擁。
微かに香るのはきっと柔軟剤の匂い。
「まだ帰らないで」
ハルの切ない声に胸がきゅっと締め付けられた。
「ごめん。さっきは大人のキスにビックリしちゃって。ちゃんと一緒に片付けるね」
「俺こそごめん、ビックリさせて。ちょっと自分を抑えられなかった」
スッと身体を離したハルに手を引かれて、2人でキッチンに立って食器を洗った。
「彼氏の家に来た彼女って、何をするもの? 掃除とか洗濯? それとも、彼氏の卒アルを見せてもらったり、一緒にDVDを見るのかな?」
もっと一緒にいたいけど、何をすればいいのかわからない。
ハルのプライベートにどこまで踏み込んでいいのかも。
「掃除も洗濯も今朝やったからいいよ。卒アルは実家に置いてあるから見せられないな。DVDはヒナが見たがるようなものはないと思うけど、見てみる?」
食器を食器棚にしまってから、テレビボードの下のDVDを見せてもらった。
サッカーに歴史物に語学学習。見事に私とは趣味が合わない。
「えーっと。ハルの歴代の彼女さんたちはここで何をしてた?」
聞いてから失敗したと気づいた。
気まずそうに目を逸らせたハルの様子からしても、答えは明らかだ。
「あー、ゴメン。何をしてたって、”そういうこと”をしていたに決まってるよね。じゃあ、じゃあ、私はおしゃべりしようかな。昨日、会社でね」
「ヒナ」
私の話を遮ったハルが私の両手を握って、真剣な目で見つめるから何だか苦しくなった。
「嫌な思いさせて、ごめん。俺にとってもヒナが初めての彼女だったら良かったのに」
「仕方ないよ。ハルはそんなにカッコよくてモテるんだから」
気にしてない振りをしたけど、ショックは結構大きくて。
そうだろうなとは思っていたけど、ハルに彼女がいたかどうかなんて今まで聞いたことなかったし。
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