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一息休んでいた電車は寂れた出発音を鳴らし、また街へと引き返して行く。
居候させてもらっている娘夫婦の家は、電車が見えるほど駅から近い。この近さなら、車を運転できなくなっても一人で街へ出かけられるだろう。
ピンポーン
私に充てられている離れのインターホンが鳴った。
ーー誰かな。
「はいはい。」
返事をしながらソファから立ち上がって、引き戸を開けに行く。
「こんにちは。」
「あらカズ子さん。ようござったね(よく来たね)。」
訪ねてきたのは、何十年来の友人のカズ子さんだった。
「今日はどうなさった。」
「いや、これ。芋がようけ(沢山)採れたもんで。サヨさん少し貰(もろ)てくれやへん?」
カズ子さんの手に、大きな袋一杯のさつまいもがある。
「立派なお芋やないの。いいの?貰ても。」
「貰て貰て。うちでは食べきれやんで。」
そう言ってカズ子さんは、芋を5、6個手渡す。
「ありがとね。あ、そうやカズ子さん、梨があるから持って行って。」
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