第1話

10/23
前へ
/23ページ
次へ
「ヨガにスムージーとは…… まるで東京スカイツリーのように美意識の高い素晴らしいお姉さんだ!」 「ちょっと、ニトロさん! さっきと意見が違うじゃないですか!」 「何を言ってるのかね、ヒロキ氏。 ヨガ+スムージー=素敵レディという公式は、くもんでも教えられている 常識ではないか!」 「そんな公式、聞いたことないですよ!」 「こんな弟ですけど、仲良くしてやってくださいね」 「あれっ!? お姉さんの声は聞こえるけど、 姿が見えないっ! おーい、お姉さんドコーー?」 水平にした右手を額にあて、周りをキョロキョロと見渡しながらいうニトロ。 「急に何言ってるんですか! 姉ちゃんならそこに立ってるじゃないですか!」 「あっほんまやっ! お姉さんの透明感が凄すぎて…… 一瞬、姿が見えへんかった……」 「やだもぉ。 さて、私はお風呂にでも入ろかなっ」 ヨガウェアを着たままの姉は髪の毛を縛っているシュシュを外しながらお風呂場へと向かった。 (今…… ほっ、星が見えた……) そしてニトロは脱衣場の扉の音が閉まるのを確認してから、 「ちょっと、浩輝くん……。 お姉さんは今、お付き合いされている人とかはいらっしゃるのかね?」 「いや、今は一応いないですよ」 「ふーーん。 あらそぅ。 さてと、食後のシンギングタイムといきましょうかな。 お姉さんがお風呂上がる までに喉のチューニングをしておかないとっ」 ニトロはテーブル横に立てかけたギターケースに手を掛けた。 「おっ、歌ってくれるんですね! 何の曲を聴かせてくれるんですか?」 ギターをケースから取り出したとき、テーブルの上に置かれてある浩輝の仕事資料に紛れて、小学生用の音楽の 教科書があるのに気がついた。 「あれ? 何で小学生の音楽の教科書なんてあるんや?」 「あー! やってしまった!」 「え? やってしまったって、どういうこと?」 「実は今日、保険加入を検討されているお客さんが、ランドセルを背負った小学生の娘さんも一緒に連れて面談 に来られたんですけど、その娘さんが学校で鍵盤ハーモニカの発表会があるということで、練習してたんですよ。  正直、その音がうるさくて商談どころではなかったんですけどね」 「それで、資料と一緒にその教科書も持ち帰ってしまったということか」 「明日から三連休で学校休みだから良かったけど、急いで返さないと」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加