第1話

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帰りは明後日になると思います。 姉はもうそろそろ仕事から帰ってきますね」 「おばあちゃん、具合悪いの? 大丈夫なん?」 「具合が悪いといっても、メンタル的なことが原因で……」 「そうなんや……」 浩輝はリビングでスーツのジャケットをハンガーに掛け、カバンから取り出した仕事の資料をテーブルに置いた。 「そういえば、晩飯まだ食ってないんやろ?」 「はい、まぁ」 「ちょっと台所かりるで。 冷蔵庫のモノ適当に使ってもいい?」 「えぇ! 晩御飯作ってくれるんですか! それはありがたいです! 今日は外食で済ませる予定だったんで」 数分後── 「ジャーン! 出来上がりー!」 「わぁ、お好み焼きですね! 美味しそー!」 「ごっつウマイで! さぁ食べよ食べよ!」 浩輝は踊る鰹節に息を吹きかけながら口へ運ぶ。 「めちゃくちゃ美味しいです! 今まで食べたお好み焼きの中で断トツ一番です!」 「当たり前やんけ! 本場の関西人が作るお好み焼きをナメるなよっ!」 ドヤ顔しながら尖らせる唇には青海苔が付いている。 「そういえば…… なんでヒロキみたいなキッチリとした社会人が俺みたいな流れ者に弟子にしてくれって頼ん できたの?」 「実は今、仕事の結果があまり芳しくなくて…… 営業成績が会社で最下位なんです……。 そんなときに、 さっきニトロさんが露店で商品を売りさばいているのを目にして、是非ともそのテクニックをご教示いただきた いと思いました!」 「ふーーん。 ちなみにあれは商品を売っているのではなくて、ゲリラプレゼントね! そこんとこ勘違いしな いように!」 「はい、すみません。  でも、僕…… どうして結果が出ないのかが、さっぱりわからなくて。 一応、商材 知識は勿論の事、営業マニュアルは全て頭に入ってるのですが……」 「あらそう。 それより、ヒロキは彼女とかおらんの?」 「一応いますよ」 「へぇ、どんな人? べっぴんさん?」 「彼女は看護師をしています。 まぁ、そこそこ美人だと思いますよ。 ニトロさんは?」 「俺は最近、失恋したばっかりや…… その傷心旅行で、こうして歌いながら全国を回ってんねん」 ニトロはテーブル横に立てかけたギターケースの先を二回叩きながら言った。 「そうだったんですね。 でも、ニトロさんってどんな人がタイプなんですか?」 「えっ、聞きたい?」 「うん、聞きたい!」
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