第1話

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「それはなぁ……」 ニトロは手に持っているお箸で宙に三角を描いた。 「ワキの大三角の持ち主や……」 「ワッ、ワキの大三角? なんですかそれは?」 「ワキにデネブ、ベガ、アルタイルが観える人や!」 「なんだか、夏の大三角のように言いましたけど…… つまりは、ワキフェチという解釈でいいんですかね?」 「〝ワキで天体観測ができる女性〟または〝女性の形をしたプラネタリウム〟とも言えるなぁ…… なんせこの 星の位置のバランスが重要なんや……」 望遠鏡を覗き込むそぶりをしながら熱弁するあまり、手に持っていたお箸はテーブルの下に落ちている。 「でも、そんな人ってなかなか見つからないんじゃないんですか?」 「まぁ、そうおらんわなぁ…… 三つの星を持つ女は……」 「なんだか、七つの傷を持つ男みたいですね……。 ワキかぁ。 僕には何がいいのかさっぱりわからない や」 「はぁ……。 これやから想像力の乏しい人間は困るねぇ。 この男のロマンがわからないかい? どうせオマ エはあれやろ? ヨガとかスムージーとか、そういうことをするような人が好きなんやろ?」 「でも、ヨガやスムージーは美容のためにやっている良いことじゃないですか!」 「何がヨガとスムージーじゃ! そんなもんラジオ体操と、おさ湯でええねん!」 「そんなの今どき流行らないですよっ!」 鰹節の踊りが終わったころ、玄関のドアの音がした。 「ただいまーー」 「あっ、姉ちゃんが帰ってきました」 「浩輝、誰かお客さんでも来てるの?」 姉がリビングに姿を覗かせると、ニトロはテーブル下に落としたお箸を速やかに拾いながら自己紹介をした。 「マイネームイズ ニトロ レペゼン大阪  お好み焼きは マヨネーズwithソースPaint a lot ええねん あおさがyeah!」 「あら、ミュージシャンの方?」 テーブル横のギターケースを見て問いかけた。 「はいっ! ストリートで心の叫びを唄ってますっ! お客さんからはよく〝歌声が甘すぎて虫歯になるよ〟と 言われるので、念のためにマウスウォッシュを常備していますっ!」 「ユニークな人ね。 後で1曲お願いしてもいいかしら?」 「もちろん! あっ、さっきお好み焼き作ったんですけど、よかったらお姉さんもいかがですか?」 「まぁ美味しそう! でも、私さっきヨガに行ってきた帰りだから、今夜はスムージーだけで我慢するわ」
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