思わぬ偶然

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注文をすると、すぐに出て来たハンバーグは確かに美味しかった。 少し残念なのは、荒井が注文したニンニクたっぷりのハンバーグの方が、香りがよくて、食欲をそそった。 「あー、それでさ」 荒井は満足げに食後のコーヒーを口に運びながら、黒川を見る。 「パートさんたちに、来月やる、暑気払い、黒川さん誘って欲しいってずっと言われてるんだよね」 黒川も出されたコーヒーを飲みながら、頷く。 「聞いてますけど、今の所来られるか解りませんね」 だよなーと、荒井は口にして、黒川の泣きぼくろを見て居る。 「モテるって言うのも大変だよな。取引先だから無下には出来ないしさ」 読まれてるな。 荒井は黒川が返事を濁している理由を読んでいる。 面倒くさいとは言えないし、だからと言って出るためにこっちに来るのも嫌だし。 眉を小さく寄せて、黒川は柔らかく笑う。 「困ってる顔もいいよね、ほんと、ずるいわ」 荒井はポケットを漁って、タブレット錠剤を出して、黒川の方に突きだす。 それを黒川は掌を返して、やんわりと断った。 荒井は頷いて自分の分だけ手に取るとそれを口に投げ入れる。 「ズルいも何も、荒井さんって既婚じゃなかったでしたっけ? 可愛い奥さんがいらっしゃるって聞きましたよ? モテなくていいじゃないですか」 荒井は黒川の言葉を聞きながら、バリバリとタブレットの錠剤を噛み砕く。 「うーん、可愛いねぇ。まあ、普通だよ。柳さんくらい可愛かったら、自慢して歩くんだけどな」
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