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「柳さん?」
初めて聞いた名前で黒川は聞き返す。
「ああ、会ったことないか。午後番のパートタイムで働いてる子。美人って言うか、可愛いって言うかさ、なんか儚くていいんだよなぁ」
荒井は、もぐもぐとしながら思いだすように宙に目を彷徨わせて、口にする。
「若い子結構いるけど、一番お気に入り。今日、柳さん入ってるな、確か。あ、ニンニク食わなきゃ良かった……」
更にタブレットの錠剤を手の中に落として、それを口に放り込んだ。
「奥さんには聞かせられませんね。あと、他の女の子達にも」
どれほど食べるのかと、ちょっと呆れながら黒川が返す。
荒井は口の中の物を全部噛み砕いて、手元にあった水をガブガブと飲み干した。
「まあ、言わなくても解るよ。男は皆あの子に弱いからね。そういうつもりはなくても、贔屓してるように見えるんじゃね? 柳さん、パートのおばちゃんたちには可愛がられてるけど、若い同世代の女の子達にはちょっと距離置かれてるっぽい」
黒川が相槌を打って頷くと、荒井はちょっと身を乗り出して黒川に近づく。
「そう言うのがまた、可哀想って言うか、いじらしいって言うかさ、いいんだよ。守ってやりたくなるって言うか」
そんなに顔を近づけて熱心に言われても、見たこともないのに、どういう反応をしたらいいのか解らず、黒川は困ったように笑う。
「本人は至ってさばさばした性格なんだけどね。それもいいんだけど」
「べたぼれじゃないですか」
黒川の言葉に荒井はしっかりと頷く。
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