思わぬ偶然

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「別にヤリたいとかじゃなくて、なんとなく守ってあげたくなるんだよね。まあ、そう思うのは俺だけじゃないし、俺は嫁が居るから出来ないんだけど」 少し不貞腐れた様に体を椅子に投げ出して、荒井はペーパーナプキンで口を拭う。 そして、それをぽいっとテーブルに投げ出して、そのままの姿勢で黒川に言う。 「だからさ、黒川さんはあんまり構わないで上げて」 「え?」 「黒川さんがきっと構ったりすると、女のやっかみ凄いだろうからさ」 会う前から釘を刺されて、黒川は困った顔をする。 それでも荒井はもう一度、しっかりという。 「普通に接するのはいいんだけど、あんまり柳、柳って言ってると、柳さん困っちゃうからさ」 「まだ、会ってないし、言ってませんけど。それに俺、彼女居ますから」 荒井は立ち上がりながら伝票を掴む。 「俺だって嫁居るよ? でも、それでも言われるんだよ。『荒井さんって柳さんに頼まれたことは率先してやりますよね』とかさ。そんなつもりはないんだけど」 黒川も立ち上がって、よく解らない非難を受けているようで居心地が悪い。 「取り合えず、気を付けますけど」 「そうしてあげて。俺の柳ちゃんが寂しそうだと、俺がやばいから」 荒井さんの方がよっぽど気を付けた方が良いと、口には出さないけれど思いながら黒川は荒井の後について、レジに向かった。
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