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二人で明るいショールームになっている店舗に戻ると、荒井は早々に事務所に引っ込む。
黒川は入って右手にあるノートパソコン売り場に居る、バイトの子に会釈をしながら、店内を進む。
ノートパソコンのさらに奥には、多種多様な事務で使う文具やら、用紙やらがずらっと陳列されている。
その左手に、事務用デスク、椅子、カウンターや、ロッカーなど展示用の家具が並んでいる。
これほど沢山実際に家具を並べている店はほとんどないので、遠方より客が来るのは頷ける。
設計事務所にそういうことを丸投げしている会社は来なくても、設計事務所の方が少しでも低予算で見栄えのいいものを見つけにやってくるのだから、需要はあるのだろう。
今も家具売り場には二人ほど、従業員が働いている。
二人は、先ほど黒川が売ったカウンターの前で何やら話し込んでいる。
黒川も知っている三十歳くらいになる従業員の松田が、黒川に気がついてぴょこっと頭を下げる。
それに気がついた、もう一人の従業員が黒川の方を向いた。
ああ、あのひとだ。
黒川は真っ直ぐ向かっていたのに、歩みがゆっくりとなる。
人を寄せつけない様な空気も、綺麗な容姿も、今日は下ろしている飾り気のない髪型も、あの時の人だと言っている。
カフェで本を読んでいた、あの女性だった。
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