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女性も頭を下げる。
横に立って居る松田が女性に、何かを伝えると、女性は顔をちょっと上げて、頷いている。
あれが、きっとさっき噂に出ていた柳さんって人だと、話しが一気につながった気がした。
確かに儚い感じがするし、手を貸してやりたくなるような気持ちにさせる人だった。
別にか弱そうだとか、そういうことではなくて、一人で立って居るのが寂しそうで、寄り添ってあげたくなる。
日陰に咲く、一輪の花なのだと思う。
綺麗で、しっかりと立って居るのに、風が来たら倒れてしまいそうな、一輪だけなのがなんとも心許ない、そういう華の様だった。
歩みを進めてやっと二人の元に辿り着くと、黒川は頭を下げて挨拶をする。
「こんにちは、KATの黒川です。初めまして」
「黒川さん、カウンター売ってくれたんですね。今から発注書書いて送信しますから」
挨拶をしたら、すぐに松田がカウンターの話を持ち出す。
「ああ、まぐれですけどね。カウンター探してるって聞いて、自社商品を猛プッシュしておきました」
黒川も愛想よく返すと、視線を女性の方に向ける。
「あ、初めまして。柳です、お噂はかねがねうかがっていました」
柳は想像より柔らかい口調で話す女性だった。
「ああ、そか。初めて会うんですね。じゃあ、俺、発注書書くんで二人で……」
そこまで言うと、柳が松田のユニフォームになっているポロシャツを慌てて掴む。
「松田さん、それ私やりますから」
松田は掴まれたところを見てから、ああ、そうだよねと、行きかけた足を止めた。
「じゃあ、お願い」
松田が言うと、柳は頷いて、頭を下げると、売り場の端の方に移動して行ってしまった。
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