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「うーん。嫌われちゃいましたかね?」
逃げる様に去って行った気がして、黒川は思っていることが口からこぼれ落ちてしまう。
松田も一緒に柳を目で追いながら、いや……と言葉を探してから、言う。
「ちょっと、人見知りみたいなところがあるんですよ」
黒川は目尻を落として小さく笑うと
「接客業でそれは大変ですね」と、返す。
松田は頭をポリポリとかくと、
「前はそんなんじゃなかったんですけど……。ま、そのうち慣れると思うんで、気長に待ってやってください」
そう言って、頭を下げて柳の元へ歩いて行った。
あの日読んでいた本はなんだったのかとか、聞いてみたいことがあったのに、至極残念に思いながら、無理やり二人から視線を外して、休憩室に置かせてもらっているアタッシュケースを取りに向かう。
単純に、ここに来る楽しみが一つ増えたし、何より大きな注文を取れたことだし、機嫌よく黒川は店長に挨拶すると、店を後にした。
実際に話すと可愛い感じの人だったな。
曇天だった空に、光りが射していて、明るくなった街を歩く。
帰り道は、ずっと柳の顔を思い出しながら歩いていた。
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