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黒川はふと目が覚めて、夜の闇にそっと射す月明かりを見つめる。
自分の体に巻き付いている手をゆっくりと、相手が起きぬように寄せると、そっとベッドから足を下ろした。
全裸のままだったので、床に落ちていた下着を拾い上げるとそれを履き、真っ直ぐ窓に向かう。
裸足の足にフローリングの床が気持ちいい。
窓に辿り着くと、カーテンに手をかける。
綺麗な月が出ているのをほんの少し見つめてから、カーテンを閉めた。
日常に不満はない。
仕事も滞りなくうまくいっている。
年上の彼女とも会いたいと言われれば会うし、体も重ねるし、不満もない。
でも、何かが違うような気がする。
この人が嫌いなわけじゃない。
でも、違う。
仕事もできる大人の女性は、付き合っていてとても楽だった。
それなのに、どうも違うと思ってしまう。
そろそろ付き合って一年だし、限界かな。
黒川は体をベッドの方に向けて、悲し気に眉を寄せる。
別れ話は嫌いだ。
理由を問われると困るから。
毎回、思うのに、『この人なら、きっと』って。
でも、違うんだ。
ごめん。
小さく吐いた息は、静かな室内に消えて行った。
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