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「おはようございます」
加奈はいつも行くコーヒーショップで、朝のオープンと共に店内に入ると、いつもそう声をかけられる。
「いつものですか?」
お替りの出来るコーヒーを差して、店員がにこやかな笑顔のままそういう。
加奈は少し恥ずかしさを感じながら「お願いします」と返事をする。
「ゆっくりして行ってくださいね。お客様がいらっしゃると、なんとなくお客様が増える気がするんですよ」
加奈は店員の胸に着く名札を見て、『店長 飯倉』と書いてるのを見る。
上手に言うなと、素直に感心して小さく笑う。
「混んで来たら、出ますから」
「本当に、いいんですよ。居てください。なんなら、本一冊読み終わるまで居て貰ってかまいませんから」
頷いてコーヒーの会計を済ますと、受け取ったトレーを持っていつもの窓際の席に着く。
たった、それだけの会話で加奈は手に汗を掻き始めていた。
店長さんが女性だったら、もう少し話したかった。
感謝を伝えたかった。
ぎゅっと握り締めた手をテーブルの下に隠し、行き交う人がまばらな駅の通路に、視線を彷徨わせる。
速まる鼓動を落ち着かせる為に大きく息を吸うと、持ってきた本を出した。
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