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本に書いてる文字に集中する。
上から下へを追っていく、頭の中でイメージが広がり、一気に違う世界へと飛び出していく。
そう言う、瞬間が好きだったし、自分の住む世界とは異なる世界を飛び回るのは、楽しくて仕方がない。
しかし、ふと現実に戻されることがある。
それは、隣の席に人が座った時や、店員がお替りのコーヒーを持ってやってきたとき。
少しのやり取りをして、息を吐く。
人々が歩いて行く雑踏の音がする。
店員が、接客をしている。
カチャカチャと食器がぶつかり合う音。
音がする。
音、音、音。
こういう時、加奈は急激に襲ってくる強い感情と闘う。
泣きたいほど、一人じゃない事を意識する。
世の中にはたくさんの人が呼吸をしていて、活動している。
私は一人じゃない。
そうだった。
強い衝動を抑え込む様に強く強く目を瞑ると、真っ暗な世界が広がる。
一人じゃないんだ。
そう思えるから、お金を工面してカフェに通ってくる。
泣きたくなるのは、私が孤独だからじゃない。
じゃあ、何なの?
小さく顔を振ると瞼を上げて、何でもない様に歩いて行くサラリーマンや、学生を見る。
普通であることが一番。
例え、誰からも愛されなくても。
負の感情に押し流されない様に、加奈は本に書いてある文字を追う。
一心不乱に、他に気を取られない様に。
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