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黒川は静かに本のページをめくっている加奈をちらりと盗み見る。
父親が昼間、自分あてにメールを送って来た。
何かと思えば、結婚式場のプランが沢山添付されていた。
そして『結婚式はしてほしい。母さんが見たいと言ってるから』と言葉が添えてあった。
それを見て母親に電話をしたら「あら、結婚式をして欲しいと言ったのはあのひとなのにね。照れくさいんでしょ、素直じゃないんだから」と、笑って居た。
半ば強引に加奈を説得して、籍だけ早めに入れて一緒に住みだした。
誰も彼もが喜んでいる。
家族も、そして友と、同僚たちも。
君は今も隣で静かに本を読んでいる。
でも、一人本を読む君は、もう一人じゃない。
黒川は柔らかく口の端を持ちあげると、指輪をはめた手で加奈の長い髪にそっと触れた。
終わり
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