日常

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加奈は事務所の扉をコンコンとノックする。 中から「はい」と若い男性の声がしたのを聞いて、加奈は「失礼します」と、その扉を押した。 この部屋は、コの字型に机が作られていて、社員がそこでパソコンを弄れるように、何台もノートパソコンが並んでいる。 今日は店長と、社員の岡村だけそこに詰めていた。 「岡村さん、椅子をしまうの手伝って頂きたいのですが」 若い社員の岡村に加奈がそう声をかけると、「あーうん、ちょっと先行ってて。これだけやったらすぐ行くから」と返事が返ってくる。 加奈はこの岡村が苦手だった。 犬のような可愛らしく人好きする顔をしているのだけど、女性従業員と噂が絶えないし、言葉が軽くてどうも苦手だった。 同じように軽口を叩いても、荒井の言葉は笑えるのに、岡村の言葉には笑えない。 加奈は「じゃあ、売り場に戻ってます」と言って、顔を自分の方に向けている店長に、小さく頭を下げると、扉を閉める。 店長に頼めば良かったかな。 店長は寡黙な人だけれど、心から尊敬している。 でも、忙しいのが解っているから、頼みにくい。 岡村さん、アルバイトの大林さんと付き合ってるって聞いたけど、本当なのだろうか? 大林さんは彼氏が居るって言ってなかったっけ? 加奈は小耳に挟んだ噂話を思い出して眉を寄せて、戻って行った。
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