828人が本棚に入れています
本棚に追加
加奈は事務所の扉をコンコンとノックする。
中から「はい」と若い男性の声がしたのを聞いて、加奈は「失礼します」と、その扉を押した。
この部屋は、コの字型に机が作られていて、社員がそこでパソコンを弄れるように、何台もノートパソコンが並んでいる。
今日は店長と、社員の岡村だけそこに詰めていた。
「岡村さん、椅子をしまうの手伝って頂きたいのですが」
若い社員の岡村に加奈がそう声をかけると、「あーうん、ちょっと先行ってて。これだけやったらすぐ行くから」と返事が返ってくる。
加奈はこの岡村が苦手だった。
犬のような可愛らしく人好きする顔をしているのだけど、女性従業員と噂が絶えないし、言葉が軽くてどうも苦手だった。
同じように軽口を叩いても、荒井の言葉は笑えるのに、岡村の言葉には笑えない。
加奈は「じゃあ、売り場に戻ってます」と言って、顔を自分の方に向けている店長に、小さく頭を下げると、扉を閉める。
店長に頼めば良かったかな。
店長は寡黙な人だけれど、心から尊敬している。
でも、忙しいのが解っているから、頼みにくい。
岡村さん、アルバイトの大林さんと付き合ってるって聞いたけど、本当なのだろうか?
大林さんは彼氏が居るって言ってなかったっけ?
加奈は小耳に挟んだ噂話を思い出して眉を寄せて、戻って行った。
最初のコメントを投稿しよう!