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脚立を持つと、岡村は敢えて、加奈の耳元で囁く。
「あのさ、俺は柳さんとずっと一緒に居たいから。だから、柳さんを推しておく」
素早い動きで、息がかかりそうなほど近くに寄ったと思ったら、言いたいことだけ言って、離れていく。
そして、脚立と共にバックヤードと呼ばれる倉庫に、機嫌よく消えて行った。
加奈は固まったように動けずに、凍り付く。
あの人は、解っていてこういうことをするのだと思う。
私がこういうことをされると、動けなくなることが解っていて、やる。
だから、本当に嫌い。
息を大きく吸い込むと、下唇がカクカクと細かく揺れた。
辺りをきょろきょろして、誰も居ないことを確認すると、ほっとしたような顔をして、加奈は自分の持ち場に戻って行った。
岡村が取った行動が、どれほど加奈にとって怖いことなのか、岡村は解っていない。
加奈は岡村が苦手だけれど、それでも守りたいと思っているのに。
それを岡村は解っていないのだと腹立たしく思う。
そして、どうしようもなく過去に囚われている自分に、腹立たしくて、泣きたくなった。
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