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夕暮れ時の街は、夏の湿気を含んでいて、髪を揺らす風が心地よかった。
スーツのジャケットを腕にかけて、黒川はもう慣れた道を歩いて行く。
自分でも現金なものだと思う。
暑気払いという名の飲み会に誘われた時は、面倒くさいという言葉しか浮かばなかったのに、今は足取り軽く、いつものショールームを兼ねる店舗に向かう。
結局、参加することにした。
勿論、目的はあの儚げなのに一人、真っ直ぐに立つ華の様な女性を、もっと知りたかったから。
『男なら誰でもあの子に弱いから』そんな風に、荒井は言ってなかったか。
本当に、そうなんだと思い知らされる。
帰ってからもどうしても気になるし、何度も本を読む姿、同じ職場の松田を見上げる仕草など、思いだされて仕方がない。
これは強い引力に引き寄せられているのだと思うしかない。
そうに決まっている。
一目惚れなんかじゃなくて、強い閃光が走れば誰だって驚いて見てしまうような、そう言った感覚に似ている。
光の元はなんなのか。
興味が沸くし、単純にあの子を知りたいと思う。
そう言う好奇心は、男の探求心をくすぐるのではないか。
なんて、言い訳をしながら黒川は店を目指す。
黒川の柔らかい髪が風に揺れて、茜色の太陽の光を柔らかく流し、淡く光っていた。
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