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黒川千歳は、新幹線からホームに下り立って、新幹線改札を抜けると、左手にあるコーヒーショップに何となく視線がいく。
取引先の会社に行くにはまだ少々早い。
そう考えていたら、視線が勝手にその店の方に移動したに過ぎなかった。
それなのに、全面ガラス張りになった店の奥に座る女性を見て、目が釘付けになる。
二人掛けのテーブルに一人、黙って座り、本を読んでいる。
落とされた視線が、ゆっくりと移動しているのも見てとれた。
距離は、結構あるのに。
それでも、流れる様に上から下へ。そして、また上がって下へと移動しているのがわかる。
綺麗な女性ではある。
十人いたら半数以上が綺麗だというと思う。
でも、十人が十人そういうかと言えば、そうではないとも思う。
それでも、その人は恐ろしく目を引くのだ。
所作が美しい。
いや、所作と言っても本を読んでいるだけ。
存在が美しいなんて思い直して、黒川は自分の考えに吹き出したくなった。
なんだ、それ。
それでも、足は勝手にコーヒーショップに向かって行くし、目はその人から離すことができない。
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