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「ずっと一緒だったから。お店の人は基本大丈夫なんです。特に、松田さんは」
松田は、だよねと、笑う。
「でもね、俺、後何か月かしたら、親の仕事継ぐために家に戻るんだよ。ここ辞めちゃう。知ってるよね」
「……知ってます」
「もっとみんなと関わってみたらどうかな? 休日とか、ずっと一人で本読んでるんだよね? 相談相手とか、話相手とか、誰かさ」
そういう話をすると、決まって加奈は俯いてしまう。
松田は解っていても、それを口に出さずにはいられなくて、そして後悔する。
「心配なんだよね」
俯いてしまった加奈に松田はちらりと視線を送ってから、ごめんと続ける。
「ありがとうございます」
我慢してそれでもこういう話がこぼれ落ちてしまうと、決まって加奈はそう返す。
これ以上、何も言うなという意思表示だと感じて、松田は口を噤むしかなくなる。
しかし、今日は加奈は顔を上げてこう続ける。
「松田さん居なくなっちゃったら、確かに話を聞いてくれる人、いなくなってしまいます。寂しいです」
うん……松田は聞き取れるぎりぎりの音量で答えた。
「ごめんね」
加奈は兄のような松田を見上げて、「謝らないでください。今まで本当にお世話になりっぱなしで、感謝してます」真面目に言う。
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