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なんだろう。
あそこだけ異世界のように、静かな時間が流れているような気がする。
確かに、初めの印象通り綺麗だけど、何がそんなに気になるのだろう。
黒川はテーブルに肘をついて、ついつい、じっくり観察してしまう。
なんてことない服装をしているし、髪型も無造作に一つに束ねているだけ。
化粧はしているのかしていないのか。若いから、必要ないのか。しっかり化粧をすれば映えるだろうし、きっとぐっと年齢が上に見えるんじゃないかと思う。
熱心に文庫本を読んでいるが、カバーがかけられていて、どんな本を読んでいるかもわからない。
年齢も解らない、趣味も解らない。
そこまで観察して、小さく息を吐く。
興味持ち過ぎだな。
それでも女性のテーブルの上に乗っている飲み物を見て、ホットコーヒーでも飲んでるのか?とまたあれこれ考えてしまう。
黒川がどんなに興味を持っても、女性は一度も顔を上げることはなかった。
黒川が、その店を後にして、一度振り返って店の外から女性を見たが、その時も変わらずに本を熱心に見つめていた。
一度も顔を上げなかったな。
視線を合わせることも出来なかった。
黒川は残念に思いながら、人が行き交う駅の中に消えて行った。
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