コーヒーショップ

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黒川は普通改札を抜けて、新幹線改札に向かう途中にある、朝立ち寄ったコーヒーショップにまた勝手に目が行ってしまう。 少しだけ、期待はしていたのだと思う。 でも、二時間以上経っているから、居なくて当然だと、頭では理解していた。 それなのに、その人はそこに居る。 朝と違い、店内は軽い昼食を済ませようとする者で、三十席ほどある店内の席が、空席がないほど混み合っている。 しかし、その人の前の席だけは空いている。 ああ、皆同じ思いなのかもしれない。 あそこは立ち入れない領域で、入るのに躊躇するのだろう。 それでも、黒川が見て居る前で、トレーにパン系の食事を乗せた若い女性が、その人に声をかける。 きっと『ここいいですか?』とか、そんなことを言っていて、その人は顔を上げて、真面目な顔で頷く。 やっと顔を上げたな。 俯いた顔も綺麗だったけれど、顔を上げても印象は変わらない。 むしろ、声をかけて来た女性に小さく微笑んだのを見て、黒川の気持ちがちょっと上がる。 あ。 そこで、黒川はぴったりと足を止めて見入っていたことに、自分自身で気がついて、慌てて足を前に出す。 朝あった野良猫に、もう一度会えたことの喜びに似ている。 その猫が、自分を見て、ニャーと鳴いてくれた時の感情に似ている。 ちょっと嬉しくて、ちょっと得した気分。 次の出張の時も、会えると良いけど。 黒川は、機嫌よく朝よりも人の少ない新幹線ホームに歩いて行った。
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