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黒川は一か月ぶりに、降りたった駅で、コーヒーショップを見て、思いだした。
店内に目を凝らしても、本を読んでいたあの女性は居ない。
まあ、そんなもんだよな。
残念ではあるけど、そんな幸運が続くわけがないと、いつも行っている取引先の会社に向かう。
朝、家を出た時は晴天だったのに、その駅を出ると、曇天で、たった四十分かけて来ただけなのに、天気が全然違うのだなと天を仰ぐ。
もうすぐ、梅雨だし、それを越えて真夏になったら十分の距離もしんどいだろう。
タクシーを使えばいいだけの話だけど。
黒川は思って、曇天の中を歩いてその会社に向かう。
相変わらず二時間程度の接客をし、店員と雑談をした。
事務用カウンターが売れて、黒川の気持ちは揚々としていた。
ああいう物は、大体同じメーカーで揃えるし、見栄えをこだわれば、後々は同じシリーズで机やなんかも買いそろえてくれる可能性がある。
「黒川さん、たまには一緒に飯でも行く?」
その会社の社員である荒井に声をかけられた時も、機嫌よく二つ返事で了承した。
「近くに、ハンバーグの美味しい店があるんだよ」
「いいですね。行きます」
普段なら、断って、真っ直ぐ帰社してしまう所だ。
でも、今ならどんなものでも美味しく感じられそうだし、この気持ちを共有したい。
そんな気持ちで、軽い足取りの黒川は荒井の後をついて行った。
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