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「お願いします」
俺は体育館裏で幼馴染の高槻米子に全力で土下座した。しかも、額を地べたに付けるきっちりとした土下座だ。土下座のせいでヨネの顔は見えず、何を考えているかうかがえなかいが、とりあえず俺は土下座を続けた。
ここには俺達しかいない。木々が植えられベンチの置かれた心地の良い空間は、生徒達に人気の憩いの場所だが、昼休みが始まったばかりのこの時間はまだ誰もいない。
教室から離れていることもあり、風に揺れる木々の葉音だけが聞こえる静かな空間だった。そこに、俺のお願いする声が響く。だが、それよりもはっきりしとしたヨネの声が、俺の声をかき消した。
「絶対に嫌! 何で私が悠斗にしなくちゃいけないの!」
「そんな意地悪なこと言わずに!」
なるべく悲壮感漂う顔で、俺はヨネを見上げた。だが、ヨネはそっぽを向いてこちらを見ようともしない。ヨネの長いキレイな黒髪が風に揺れ、うっすらと赤い頬が微かに見えた。
「もうその土下座もやめてよ。誰かに見られたら恥ずかしいじゃない」
「じ、じゃあ、してくれ……」
「何でそうなるのよ! 土下座したってやらないって言っているでしょ!」
怒りで顔を赤くしたヨネが、俺に向かって叫んだ。肩を怒らせ、黒目がちな目で睨み付けてくる。顔は可愛いのに迫力満点だ。
ヨネが嫌がる気持ちもわかる。
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