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ヘルメットを被っているから、顔は見えない。
でも私には分かる。
あの優しかった兄が、今は人を平気で殴り、蹴り、こんなに大勢見ている中で土下座をする人間の頭を踏みつけている。
多分兄はあのヘルメットの中で笑っているんだろう。
自分の力を誇示して満足なんだろう....
「パトカー来たよっ!」
八重の声に我に返った瞬間、兄のバイクが私の前を走り過ぎ、他の人達もそれに続くように逃げて行った。
孝太郎は腰が抜けたのか座り込んだまま。
「何か凄かったね....でも結果として孝太郎が殴られずに済んで良かったね」
まあね....
「それに顔は見えなかったけど、孝太郎を助けた人って何かカッコよくない?」
「は?暴走族のどこがカッコいいの?八重、何考えてんのっ!?あ....」
八重が驚いて私を見ている。
「じ、冗談だよ....な、何か愛奈.怖いんですけど....」
つい興奮してしまった。
「ごめん....あ、バス来たよ」
でも、暴走族なんて絶対にカッコ良くなんてない。
あの優しかった兄があんなになってしまうんだから。
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