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その言葉以外に言うことはないのか、再度彼女は同じ内容のことを言う。
「それについては、これからご説明します。兄貴、ここはいいから」
それに対して、弟はにこやかな表情で答えながら、最後は俺に向かってそう言った。
その表情から、内心はとても怒っていることが見て取れる。
確かに、実の母親が亡くなったというのに、彼女から出てくる言葉は、「幾ら自分はもらえるのか」―つまり、遺産のことばかりだ。
だが、弟とて弁護士として、この手の現場は幾度となく見てきたはずだ。
俺がしゃしゃり出て話をややこしくするよりも、断然上手くやるだろう。
俺は弟の言葉に頷くと、テーブルの席から、厨房へと足を向けた。
お袋が親父と再婚したのは今から二十五年前、俺は八歳で弟は五歳だった。
実の母親のことは、あまり覚えていない。
ただ、「死んだ」とは聞いていないし、親父からは、最後まで実の母親のことを聞くことはなかった。
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