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その人物は、約束の時間きっかりに現れた。
金髪に近い茶色の髪は、天辺の部分が黒くなっていてプリンのようだった。
化粧はしているみたいだが、上下黒のスエットで、まるで家の中にいるような格好だ。
だけど、顔立ちはやっぱりお袋によく似ていた。
それはそうだろう。
彼女は、お袋が生んだ、唯一の子どもなのだ。
「いらっしゃいませ」
俺は座っていた椅子から立ち上がり、頭を下げた。
たとえどんな格好で来ようとも、俺の店に来てくれたら客なのである。
頭を下げるのは、礼儀だった。
「あんたが、西本(にしもと)さん?」
甲高い声で話しかけられる。
「はい。西本武(たける)です。この度は、わざわざお手数をかけまして、申し訳ありません」
「で? 私はいくらもらえるの?」
そうして、椅子に座るなり、彼女は言った。
開口一番の言葉は、どちらもお袋の死を悼むものじゃあなかった。
「それに対しては、私が説明させていただきます」
と、その時俺の隣に座っていた弟の徹(とおる)が、ペコリと頭を下げながら言った。
「弁護士の西本徹です」
「御託はいいから。私は幾らもらえるのよ」
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