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カタログには、『客前で使う鉄板焼き用』などという懇切丁寧な説明書きは載っていない。使う人が、最適製品を探さなければならない。
「鉄板焼き用って、普通はどんなのを使っているんだろ?」
器子も、そんなに知識がある訳ではない。
向崎に聞けば、的確な什器を即座に選んでくれるだろうが、今は忙しそうなので手を煩わせたくない。
それに、ナイフとフォークぐらい、他人を頼らず自分で探せと言われそうな気もする。
だから、自力でなんとかしようと器子は考えていた。
想像で探している器子は、あれか、これかと悩みながら、ひたすら、カトラリーのページを眺めた。
カトラリーとは、金属食器のことで、ナイフ・フォーク・スプーンはここに当てはまる。
種類が豊富すぎて、逆に選びにくい。
「いっぱいあって、迷うなあ……」
独り言が出ている器子の顔を、向崎が見た。
集中すると、ついつい独り言が出てしまうが、器子本人は気付いていない。
向崎の視線に気付かず、カタログを凝視した。
「鉄板焼き屋なんて、行かないから……」
こういう時のために、普段から市場調査という名目の食べ歩きも必要だったりする。
もっとも、経費では落ちないのでそうそう行けるものではない。
「熱に強い素材のものよね」
ステンレスかなと眺めていると、向崎が声を掛けてきた。
「ステーキバー・グーの、鉄板用フォークとナイフだろ?」
向崎から話し掛けて来たことは嬉(うれ)しかったが、言い当てられたことに驚いた。
「そうです。先日、本部の人から頼まれたんですが、ご存知だったんですか?」
「景山係長から、聞いている」
景山係長は、ステーキバー・グーの営業担当。本部の人から景山を通じて、向崎まですでに話が来ていたようだ。
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