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真っ赤なバイク、カワサキ・エストレヤが重低音のエンジン音を響かせて、ミコト株式会社の外駐車場に滑り込んだ。
黒のライダースーツに身を包み、フルフェイスのヘルメットを被った操縦者は、若き女性、羽田器子。
美術大学インテリアデザイン科を卒業後、飲食店舗の内外装・厨房の総合デザインを請け負う、ここ、ミコト株式会社に春から就職した新人デザイナーだ。
エンジンを切り、軽やかにバイクから降りた。
ヘルメットを外すと、下からサラサラのショートボブが出てくる。
乱れた髪を手櫛で軽く整えつつ、駐車場に置かれたBMW S1000Rを見た。
(今朝も、もう来ている!)
これは、器子の上司である向崎志央課長のバイクだ。
仕事の鬼である向崎は、前日にどれだけ残業しようが、常に器子より早く出社している。
ここは、工業地帯のど真ん中。最寄りの駅から歩くと距離がある。そのため、ほとんどの社員が自家用車、バイク、自転車などで通勤している。
向崎のBMWは、右半分と左半分のデザインが異なるアシンメトリーという奇跡のデザイン。
値段も高く、若手会社員が簡単に手を出せるクラスではなく、器子の憧れのモデルだ。
いや、心の奥底では、バイクを通じて持ち主に憧れているだけなのかもしれない。
BMWに熱い視線を向けながら、ヘルメットとバッグを抱えて社屋に入った。
ミコトの社屋は、地上5階建ての鉄筋コンクリートビル。
真っ白に塗られた外壁は、見る人に清潔感を与え、屋上に掲げられた『ミコト』と大きく書かれた看板は、赤橙色で温かい印象を与える。このデザインは、厨房をイメージしている。
1、2階は、厨房で使われるステンレス製品の加工と自社製品の組み立て工場。
プレス機械を扱うため、時折、振動による衝撃が社屋全体を揺らし、大音響が周辺に響き渡る。
入社直後は驚いたが、もう慣れてしまった。
3階は、会議室と、厨房機器のデモができる食堂。4、5階が事務所だ。
器子は、1階の工場に入った。
「おはようございます!」
新人らしく、元気な声で挨拶をしながら通り抜ける。
「おはよう」
「おはよう、器子ちゃん」
「今日も元気だね」
あちこちから、職人たちの声が掛かる。
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