第一話 若夫婦のフレンチレストラン

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「そうだったんですね。それで探しているんですが、希望を詳細に言われていないので、どれを選んだらいいのか難しくて」  向崎が選び方を教えてくれた。 「選ぶポイントだが、耐熱性があるのは当然の事で、料理人が鉄板の熱を受けにくい、やや長めで熱伝導の少ないもの。汗で滑らない素材と形状。お客様の目に入るから、ちょっとは洒落れたデザイン。チェーン店は予算に厳しい。金額がピンキリなので、過去の販売実績を参考にするといい」 「ウワッ、そこまで!?」  器子は、細かい指示に驚いた。  耐熱性ばかり考えて、使い手のこととか見た目とか全く考えていなかった。勿論、予算も。 「当然だ。お客様が何を求めているか、具体的に言われなくても察して提案する。そうすることで、お客様の信頼を得ていくんだよ」 「分かりました。探してみます」  痒い所に手が届く提案で、向崎が顧客の心を掴(つか)んできたのだとよく分かった。  さすがだなと思いつつ、改めてカタログに見入る。  素材だけでも、銀製、銀メッキ製、真鍮製、ステンレス製、木製、プラスチック製と様々あるが、先ほどの向崎のアドバイスに従って取捨選択していく。  銀製、銀メッキ製は、見るまでもなく予算オーバーなのでページを飛ばす。  木製とプラスチック製も除外。  結局、持ち手が木製のステンレスを選んだ。  掴みやすく、滑りにくい。見た目も悪くない。  価格帯も高額なものから安価なものまであるが、実績値の範囲内のものにした。  気に入ってもらえると嬉しいのだが――。
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