第一話 若夫婦のフレンチレストラン

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 パソコンを見ていた向崎に、突如言われた。 「羽田さんに、購買の塔前(とうまえ)課長からメールが来ているぞ」 「え?」  嫌な予感がした器子は、急いでメールを読んだ。 「えーと、先日発注したランプシェードの在庫数が足りなくて、納期に間に合わない。どのような確認をしているのか……。は?」  要するに、苦情のメールが塔前課長から来ているということだ。 メールはデザイン課だけでなく、社長以下全社員に送られている。  これはいつものことで、責任所在を明らかにするためらしいが、納期が遅れても自分の責任ではないという自己主張の表れだ。 「どうして? ちゃんと、メーカーに確認したのに!」  器子は、落ち込んだ。 「落ち込む前に、ランプシェードの欠品をどうにかしないと」  向崎は器子の失敗を責めるどころか、ミスの挽回策を考えてくれている。 (優しいんだよなあ……)  向崎は、顏もいいけど性格も良い。そして、頼もしい。 器子の歓迎会で、隣にいた勤続20年のベテラン経理係長山岸舞に言われたことを思い出した。
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