かしわもち

3/4
前へ
/4ページ
次へ
そして、あの3月3日を迎えたんだ。 寒い寒い雪の日だった。 通夜の席で、親戚が口を揃えて言った。 「ばっちゃん、餅が好きだったよな」 そうだった。 いつだって正月の朝は誰よりも早起きして、餅を作るんだ。ひいばあちゃんの家は農家だったから、田んぼで米も麦も作ってた。だから、夜のうちに精米しておいて、朝にごはんを炊いて、餅をついてた。 「お前が生まれた頃には、餅つき機械なんていうハイテクな物が発売されてな。家でも使ってるけど、昔は全部手作業だったんだぞ。倉庫にはな、杵と臼があるんだ。ずっと、ひいばあちゃんが使ってたんだぞ」 祖父は懐かしそうに目を細めていた。 「餅、作って供えるか」 それからというもの、仏壇には、常に餅が置かれるようになった。また、正月と命日には、仏間で餅を食うというルールまでも決められた。 ある日、ふと疑問に思ったことがあったから聞いてみた。 「餅なら何でもいいのかな?」 私の問いかけに、祖父が答えた。 「そういや、餅の中でも、かしわもちが一番好きだったなぁ」 その一言から、母と私の、かしわもちの捜索が始まった。 ひいばあちゃんが大好きだったかしわもちを、仏間でみんなで食べようと思ったんだ。 何回も一緒に食べたことがあるから、味は覚えてる。あんこじゃなくて、味噌なんだ。甘じょっぱくて、クルミが入っていて、餅も柔らかくておいしいんだ。 ただ、それがどこのかしわもちだったかを知らない。とにかく手当たり次第店を回って、かしわもちを買って食べてみたけど、全然違う。餅の味も固さもそうだけど、何より中の味噌が違う。そもそも、味噌あんを使っている会社が少ない。 スーパーではなく、老舗の和菓子店のものなのかと思って散々探し回ったのに、一向にその味が探せない。 「じいちゃん!ひいばあちゃんと食ったかしわもちが全然見当たんないんだけど、どうなってんの?」 お門違いとはわかっていたが、苛立ちをぶつけずにはいられなかった。 「ん?ありゃ、売りもんじゃねぇぞ?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加