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ランチタイムにはまだ早く、学食は空いていた。あまり味は良くないが、何より安さが有難かった。
マルクは文化の違いを心得ている人で、時間にもきっちりしていたし、誰にでも愛想を振りまくタイプでもない。彫の深い顔立ちに、澄んだ目をしている人だった。
食事を揃えて席に着く。手をあわせる私をイタズラな目で見て、マルクも同じ仕草をした。
食事が進んだところで、マルクが口を開く。
「You look different today.(今日、いつもと雰囲気違うね。)」
私は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「What do you mean?(どういう意味で?)」
「I don't know the reason. (よくわかんないけど。)」
メイクが薄いからじゃない?とごまかして、私は無理やりメイクの話に持って行った。
童顔に悩んでいるとか、化粧をしても顔が変わらないとか、そんな話でもマルクは楽しそうに聞いてくれた。
授業を終えると、どっと疲れが出てきた。しかし部屋に帰るとまた昨夜のことを思い出してしまいそうな気がして、すこし気が引けた。スーパーに買い出しに行き、気を紛らわす。帰宅してからはキッチンに直行して、いつもより多めの品数の夕食を作った。
エマが帰宅してきたのが音で判った。エマが端正な顔を覗かせて、挨拶を交わす。
「You really like cooking.」
「Am I?」
私のことを、料理好きと思っていたなんて意外だった。単に貧乏留学生なんだけど、と思いながらもエマの顔を見るとホッとした。
留学生の春香と私を快く受け入れてくれた彼女は、私たちと同じ大学の文学部に在籍していた。
私は今はビジネスコースに在籍しているが、日本では文学専攻だった。交換留学はそういう、ミスマッチがざらにある。枠をとるのに必死で、専攻は二の次というのがよくあった。
エマはあまり料理をしない人で、リビングで本を読みながらレトルト食品ばかり食べていた。
その割にきれいなスタイルで、どんな魔法を使っているのか不思議に思うこともあった。
エマが食べられそうな、マッシュポテトとベビーリーフのサラダを勧める。
「I haven't seen such fresh vegitables in several years. (ここ数年、こんなフレッシュな野菜を見てなかった気がするわ。)」
まるで初めての料理を口にするかのような表情に思わず吹き出す。
一緒に食事をとりながら、私は思い切ってエマに訊ねた。
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