49人が本棚に入れています
本棚に追加
1曲だけならいいかな……
落胆した気持ちを押しやって、私は席を立った。
ダンスホールまでエスコートされて、身体を動かす。男性は私の歳を聞いたり、日本人かと尋ねたり。そうして、腰の位置にあった手のひらがだんだん下がってきた。
「Don't.(やめて)」
ギルと違う手のひらに嫌悪感を覚えた。
男性は非礼を詫びて、腰に手を戻す。
私は最初の約束どおり、1曲でその場を離れた。
人ごみを掻き分けてダンスホールから出ると、またギルたちの姿が目に入る。ギルは私に気付くと、友達に何か声を掛けてこちらへ歩いてきた。
私は何だか怖くなって、黙ってギルを見つめていた。ギルは何だかすこし機嫌が悪そうだった。
「Will you dance with me? (一緒に踊りませんか?)」
表情から予測できない丁寧な物言いで、ギルは私の手を取った。
私の心臓は一気に跳ね上がり、そのままダンスホールに戻った。
奥まで進んで、お互いの友人の目から逃れた。
人ごみを掻き分けるのに必死で、ようやくギルを正面から見つめた。
「I believed that we could meet again. (また逢えるって思ってた。)」
ギルの一言で、私は心が震える。彼は先ほどと打って変わって笑顔だった。少年らしい、輝きのある笑顔だった。
「I missed you. (逢いたかった。)」
気の利いた言葉が出てこなくて、私はそう返すのが精一杯で。私たちは身体を揺らし始める。
身体を寄せて、キスを交わして。力の抜けた私の腰に手を回して、ギルが囁く。
「I wanna spend time with you. (2人っきりになりたい)」
耳元に掛かる息で、私の顔は上気した。
1曲踊ったところでダンスホールを抜け、ギルと私は紗央莉と結実が居る席に向かった。
私たちの様子を見て、2人が驚いたのは言うまでも無い。
ギルは短く挨拶をして、自分の友達のところに断りを入れに行った。
「なになに?どういうこと?」
結実が興奮気味に言う。
紗央莉も
「ナンパされたの?ついていくの?」
心配そうに聞いてくる。
「あー、えっと……詳しくはまた話すけど、知り合いというか……ごめん、行くね!」
恥ずかしくなって、私は頭を下げて走り去った。ギルが笑顔で待っている。
私たちはCLUB edgeを後にして、私のフラットへ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!