初めての体験

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肌寒い風の中、肩を出し、薄着で夜の道を歩く。 私は友達とその場所に向かっていた。 夜遊びなんて日本に居たときにはしたことがない。それは親元で暮らしていたからではなくて、そういったことをすることに興味が無かったから。 大学2年。毎日必死に生きてれば、夜には必ず眠くなる。夜に遊ぶなんて、翌日が全くの無駄になるから嫌いだった。 課題を出し終わった翌日。 開放感に浸りながら、私は結実、春香、紗央莉と歩いていた。 CLUB edge そこは私たちの留学先にある、小さなクラブ。 日本人は私たち以外には居ない。東洋人は西洋人からは見掛けで区別がつかないらしく、私たちはよく隣の大陸の人に間違われて、暴言を吐かれることがあった。 そして日本人と判った途端、手の平を返す西洋人も多くいた。 そんな国だったけど、私は毎日必死に生きていた。日本に居た時と違ったのは少しだけお酒を飲むようになったことと、夜遊びを月に数回するようになったこと。お酒は元々強くない。しかし日本よりも価格が安いし、何より美味しかった。 クラブも数回来れば小慣れたもので、荷物を預けるお金を節約するために、私たちは真冬の街を薄着で歩く。同じような姿の若者が同じ方向へ向かう。徒歩で行けるところにCLUB edgeは小さな門を構えていた。 「Hi, there!」 あまり愛想のない受付のお姉さまに人数を告げて、学生証を見せる。クラブに限らず、学割が効く場所は多い。短い通路を進むと、すぐにダンスホールがあった。今日はSTUDENT day で、特に学生が多い。 クラブは男女が出逢う場所。そう知ったのは実際に来てからのことで。 長期留学が発端で別れるカップルは多い。 ーー私もそうだ。1年も会えないのは耐えられない、そう言われて出発直前のひとつ年上の彼、ユウジと別れた。 未練はあった。しかし目まぐるしい日々の中で、ひと月経てばもうユウジを思い出すことは無かった。 「亜希は何飲む?」 お酒が大好きな春香がすでにボトルを手にして聞いてきた。 「これにしようかな。安いし。」 日本でも見たことがあるそのお酒は 、炭酸が入っていて飲みやすかった。私はボトルを片手に、ダンスホールを見つめる。友達は皆、それぞれ違った方向を向いていた。 結実と紗央莉は椅子を見つけて腰掛けた。2人は見た目通りの大人しい性格で、喧騒をよそに笑って話し始めた。 私は無言のまま、春香と同時にダンスホールに足を踏み入れた。
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