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白の世界
土曜日。私たちは近所のパブに集まっていた。
小さいが、雰囲気が穏やかで個人的にも気に入っている店だった。
各々席に着いた所で、結実が話を切り出す。
「で!?あの少年は誰?」
プライベートな内容は伏せて、今までの経緯を話す。
「じゃあ相手は1カ月以上も前から気になってたってこと?すごいじゃん!」
春香が感心したように言う。紗央莉も頷いて、またお酒の入ったグラスに手を伸ばす。
「みんなのこと見てたって言ってたよ。私だけじゃなくて。」
私の言葉に春香が色めき立つ。次回は気合い入れなきゃ!と真剣な顔で言う姿をみて、皆で笑いあった。
晴れて隠し事が無くなった私は、お互いの学業を優先しながらも月に3度程のペースでギルと逢瀬を重ねた。むしろ、逢える日を作るために計画的に物事を進めるようになり、すっきりした頭で生活出来ていた。
私のフラットで会う他に、休日にギルの学校の図書館で会うことも多かった。彼のカレッジは全寮制の男子校で、校内への部外者の立ち入りは禁止されている。
しかし、多くの教育機関がそうであるように、地域社会への貢献という立場から、図書館は解放されていた。
「あー、出来た!Gill, could you check this for me?」
息を吐いて、小声でギルに呼びかける。
私は2時間かけて課題を仕上げると、ギルにネイティヴチェックをお願いする。(※作成した外国語に誤りがないか母語話者に確認をしてもらうこと。)
ーー2時間かけた作文、10分もかからず読んじゃうんだもんなぁ。
PCの画面にハイライトを入れていくギル。正解は敢えて示さずにいてくれる。
「There you go. (はいどうぞ。)」
そこから私は辞書とにらめっこが始まる。
ギルが読んでいる教科書は序文でお手上げの内容だった。
そんな状態だったが、ギルも図書館でのデートを楽しんでいてくれているようだった。夜道を歩くのは危険なため、いつも夕方には切り上げて帰り支度を始める。
辞書を棚に返しに行くと、ギルが専門書を持ったまま私が居る棚に近づく。
「Aki……」
ギルが私の名前を優しく呼んだ後、声を殺して唇を重ねた。
本棚にもたれ掛かった身体は力が抜けて、すぐに熱を帯びてきた。
「Don't jerk me around. (いじわるしないで。)」
ギルにやっとのことで言葉を返すと、私の額にキスをしてから身体は離れた。
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