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駅に降り立ち、薄暗くなった街を歩く。
土曜日の夜は人通りが多い。治安は悪い街ではなかったが、女性が夜間に一人歩きするのはあまり好ましくはなかった。私は食材が少なくなってきていたことを思い出し、時計を見遣る。11月も終わりに近付いていて、冬の気配がしていた。
「ちょっと遅くなるけど…明日も休みだしいいかな。」
少し迷って、スーパーマーケットに向かう。手早く済ませたつもりだったが、もう街は夜の顔になっていた。
私の住むフラットは通り沿いだが、入り口は裏通りに面していた。街灯の光が届かなくなったところで、私は急に誰かに腕を掴まれた。
同年代の男性が2人、私を見下ろす。
「What?」
私の問いかけには答えず、片方の男性が意地の悪い笑みを浮かべて私を強引に引っ張った。
「Pretend that you know us each other. (知り合いの振りしろよ)」
その言葉で私は凍りついた。
私はタクシーに乗せられ、土地勘のない場所まで来ていた。そこは初めて来るクラブだった。
黙って2人を観察していると、地元のアクセントがあること、年齢は20歳前後と思われること、などが分かった。強引に進められたアルコールはなんとか断ったが、ダンスホールに連れ込まれて代わる代わるパートナーをさせられた。
ギルと想いを交わしてから、他の誰とも踊ったことはなかった。腰に添えられた手の感触が気持ち悪い。私は恐怖と哀しみで涙を堪えるのに必死だった。
「What are you intend to do? (目的はなんなの?)」
ニヤニヤ笑う彼らの目線は、ダンスホールの先にあった。
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