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目の前の男性に耳元で声をかけられてハッとする。
「Are you Chinese?」
この地に来てから何度となく聞かれたフレーズ。
私は首を横に振り、片手にお酒の瓶を持ったまま彼の耳元で私は日本人だと告げた。
曲が変わるのを見計らって、私は男性の腕をやんわりと腰から外して別れを告げる。
酔いが回った身体は熱い。ダンスホールを抜けて隅の方に行き、私は持っていたお酒で喉を潤した。
その時、目の前に東洋人の私から見てもまだ若い少年たちが現れた。
その中の1人と目が会う。
「Will you dance with me?」
私は、自分に声を掛けたのかジェスチャーを交えて確認した。
私より10センチくらい背の高い、金髪に青い目の彼は私の手を取った。
彼の友人たちが冷やかす中、私たちはダンスホールへ脚を踏み入れる。
「Can I ask your name?」
彼が向かい合ったまま身体を揺らして尋ねた。地元の訛りがある。近くに住む子なのかな……
名前を答えようとしたとき、人波に押された。抱き合う格好になって、彼の華奢な身体のラインが判った。細く長い腕が、私の肩と腰を包み込む。
「……sorry.」
図らずしも距離が近づき、私はなんとなく声に出して謝った。
「nop.」
笑顔で返してくれる彼の顔は私をまっすぐ見つめている。
ーーなんだろう、この気持ち……
私は今まで感じたことのない身体の疼きを覚えた。
身体の奥から何かが湧き上がるような……それはなんだか恥ずかしい、隠しておきたいような気持ち。
俯いた私の腰に添えられた手が、ジーンズの上から私のヒップラインをなぞった。
腰まで上ったその手のひらが、隙間から入り込んで私の下着に触れた。
ーーこっちの人はTバックは普通に履くってきいたけど……
それを聞いたのは春香からで、今更ながら不確かな情報だと後悔した。
「……No.」
やんわりと彼の手の甲に自分の掌を重ねて言う。
いたずらを見つかった少年の面ざしが見えた。
彼の手はすこし名残り惜しそうに動いてから、再び腰の位置に添えられた。
見上げると彼は笑顔で私を見ている。
吸い寄せられるように、私たちはキスをした。
その瞬間、下腹部が疼いた。身体から一気に力が抜けて、彼の腕にしがみつく。こんな感覚、知らない。
腰に添えられた腕に力が入って、私はキスに溺れた。
音楽が響いて、人の波が揺れる。
私はもっとキスがしたくてたまらなくて、思わず自分から口を開いていた。
「Kiss me more.」
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