第1章

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 彼女はマサユキの車を降りると、 ドアミラーにトートバッグを叩きつけてへし折り、 その場から走り去った。 ドアミラーの惨状に パニックになったマサユキの悲鳴が、 背後から響いてきたのを覚えている。  本当はタクシーで帰りたかったのだが、 財布には三千円ほどしかなかった。 今日のデートで使い果たしてしまい、 それでこんな最終電車に 乗らなければならないことになってしまったのだ。  胸ポケットの携帯が着メロを奏でた。 マサユキからだ。ウザそうに顔をしかめると、 携帯を開いてメールを読んだ。 そこには破壊されたドアミラーの 恨みつらみが書き連ねてある。 謝罪要求と弁償請求。 (誰があやまるもんか。弁償?ざけんなよ。 だったらこっちも今までの飯代、 遊び代、ホテル代請求してやる)
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