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カタカタとタイピングの音が響く。金曜日だからか、殆どの社員がいつもより早く退勤していった。
諒以外に残っていた結木も、帰る支度を始めるのがわかった。
「村上ー、もう終わる?」
「あとちょっとです。施錠は俺がしますから。」
顔を上げずに答えた諒に、結木が言葉を続ける。
「……婚約すると余裕だねー。」
「何がですか?」
手を止めて顔を上げた諒に、結木が呆れた顔で話を続ける。
「遠藤さん、今日はいつもに増して綺麗だったよな。」
「……そうですね。おしゃれしてましたね。」
諒は再びパソコンに向かった。
「どこ行くか、聞いてないの?」
「聞いて無いです。」
「クレヴァン氏とディナーだって。」
諒は手の動きを止めた。予想通りだったはずなのに、いざ聞くと頭がついていかない。
「……嘘ですよね?」
「そんなことで嘘つくわけないだろ。駅前のホテルのフレンチらしいぞ。高級だなー。」
「でも、食事だけなら別に……」
諒はまだ動けずにいた。そんな諒を見て、結木は声の調子を強くした。
「遠藤さんはそのつもりがなくても、相手はそうじゃないだろ?いいか、ホテルのフレンチだぞ。」
結木の様子に、ようやく諒は立ち上がった。
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