第7章:優しさに揺れるこころ

6/14
2065人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
「俺じゃダメ?俺は誰よりも要のことわかってる」 「知ってる……でも俺は……」 「お兄さんのことは、もういいんだろ?」  要は思わず和田の顔を見た。和田は、まるでなんでもお見通しのような顔でにっこりと笑った。 「な、んで……?」 「インターンにいったとき、何か吹っ切れたんだなって思った。そうじゃなきゃお兄さんの会社になんか行かないもんね」  和田はやはり気付いていたのだ。自分がずっと兄のことをが好きだったこと。そして、当然、要の心の変化も知っていた。それなのに、要に聞くことなく、いつも通り見守ってくれていた。 「俺しか、要を幸せにできないと思うけど」  ふふっと悪戯っ子のような顔をする和田は、まるで要に”もう諦めなよ”と諭すようにも思えた。  純太郎に拒絶されて、もう誰からも愛されてないと思った。和田でさえも、自分から離れていってしまったと思っていた。  そうじゃなかった。和田だけは、自分を好きでいてくれる。愛してくれる。そばにいてくれる。こんなにも人に想われることが幸せなことだなんて、思わなかった。当たり前のことに、ようやく気づいた。 「もう待てない」 「うん……」 「そんな顔もう二度とさせない。要は俺が幸せにする」  二人の唇が重なったのは、自然なことだった。もう以前のような遠慮はなくて、容赦なく和田の舌が入り込んで、要の口内をかきまぜていく。吐息を漏らしながら、要はその甘い甘いキスに溶かされていった。  和田に全身を愛撫されて、二人ひとつになって、狂おしいほどの快楽に沈められながら、要はぼんやりと考えていた。  これでいい。和田にさえ、愛されていれば、自分は幸せなんだ。  これ以上何を望むのだ。  和田はこんなにも自分のことが好きなんだからいいじゃないか。  男に興味がない人間を好きになって振り向いてもらえないよりも、自分を一番知っている人間に骨まで愛されることのほうが幸せだと。  自分に何度も何度も言い聞かせながら、要は和田の腕の中で眠りについた。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!